小さなことを特別にしていく日々
部屋の掃除を済ませてうとうとしていると、妻と息子が療育センターから帰ってきた。妻はかなり疲れている様子だ。私は妻を休ませるために、息子と二人で出かけることにした。しかし、うまく意思疎通ができない。私は着替えも済ませてその気になっているのだが、息子はタブレットのゲームで遊んでいるばかり。着替えを嫌がってズボンを履かない。ズボンを持ったまま追いかけっこが始まってしまった。
タブレットを隠して、お出かけ用のポーチを渡したらやっと理解してくれた。気持ちが切り替わればあとは早い。機嫌を損ねることなくズボンを履いて、玄関にダッシュ。さっさと靴を引っ掛けて、私を待たずに家を飛び出した。そうだ。お出かけをすること自体は好きなのは間違いない。
太陽の光が暖かい。春分の日を過ぎてから、文字通り春が訪れたようだった。桜の花びらが一枚、どこからかやってきた。そんなものはお構いなしに、息子は大喜びで走る。冬の間に有り余っていた元気を爆発させているようだ。私は、しっかりと彼の手を繋いで続いた。念のため持ってきた二人分の上着は、全く役に立ちそうもない。そんなことも忘れて、自然と明るい気持ちになれるほど良い天気だった。
公園を通り過ぎて、イオンにたどり着いた。これまでに何度も来ているから、何となくルーチンが決まっている。息子はまず、屋上の駐車場に向かう階段を昇る。息子は、1歳半くらいで歩けるようになってから、階段が好きだ。私には刺激の乏しい遊びに思えるが、ちょっとした運動にはなる。昇って降りてを繰り返し、付き添って一巡したら、次はおもちゃ屋に向かった。
まず中央に展示してあるミニカーとプラレールに駆け寄った。電源は抜いてあるのだけれど、それでも息子には十分面白いようだ。続いて、アンパンマンのおままごとセットを触る。息子は真っ赤な茶碗に、ご飯をよそってくれた。私は食べる仕草で応じた。他の子供達もうろちょろしているので、あまり長くは遊べなかったが満足したらしい。再び息子は走り出す。追いかけてフードコートへ向かった。
私たちは、バスキン・ロビンスのサーティワンアイスクリームの列に並んだ。息子は落ち着きなく、ミスタードーナツの列に並ぼうとする。いつも、ドーナツの方を食べているせいだろう。私は「君に必要なのはこっちの方だ」と言い聞かせながら抱き上げた。息子にはまだ言葉は通じないが、メニューの写真や、カウンター越しに見える色とりどりのアイスクリームが視覚的に響いたに違いない。会計の間もちゃんと大人しくしていた。
すぐさま椅子に座って、アイスクリームをスプーンでつつく。オレンジとストロベリーの2色のアイスクリームだ。私は会計の時にもらったクーポンやらシールやらをカバンに片付けた。その間も休みなく淡々とスプーンを口に運んでいる様子がちょっと面白かった。食事に関しては笑顔を見せず夢中になりがちだが、間違いなく喜んでいるのはわかる。
こうして一息ついたあと、本屋で絵本を物色して過ごした。棚の高いところにある本をみせるために、何度か抱き上げては下ろした。何となく、ギミックのある絵本が好きみたいだ。飛び出す絵本とか、動かせるパーツがある絵本とか、後ろが見えるように切り抜いてある絵本とか。一冊買ってあげようか迷ったけれど、結局引き下がった。こういう時に私は、消極的な選択肢を取りがちだ。今思えば買ってあげるべきだったかもしれない。
最後に思い出したかのようにガチャガチャコーナーに立ち寄ったので、お金を渡した。息子は、戦利品を持ったまま、帰り道も楽しそうに歩いていた。
結果的に、すごく良い過ごし方ができたと思う。息子と過ごしていると、私の好きなゲームはできない。複雑なことや刺激的なことはあまりできない。代わりに、ささやかなことに目を向けることになる。今まで切り捨ててきたものを拾い直しているような気がして、ありがたいことだと思う。誰に向かってでもなく、これが良い思い出になって残り続けますようにと祈りを捧げる。