春、そして鳩
ただ二輪だけ桜が花開いている。日向は暖かいのだが、日陰は寒々としている。また、風の強い日でもあった。コートを脱ぐにはまだ早い。
久しぶりの外出だったので、買い物ついでに公園へ足を伸ばすことにした。人影は少ない。ボールを蹴って遊んでいる母子、バドミントンをする若い二人、ベンチに腰掛けた老人、それで全てだった。あまりにも静かで、花壇のパンジーは生き生きとしている。乾ききった噴水の広場も、閑散としていて悪くない。野外ステージを掃除する男性が二人。
営みはどこにも行かない。好ましい静寂だった。
ぐるりと回ってみると、鳩たちがたむろしている一角があった。彼らがせわしく動いているなかで、一際目立つ者があった。彼は白紙に墨をちらしたような一切の単色だった。首元に、鳩特有のあの光学的な輝きはない。
外れ者の証。
なにかがうまくいかなかったのだろう。そんなことを思った。ゆっくり驚かさないように歩みを進めたが、彼らは僕が近づいただけ離れていった。やがてカラスがやってきた。鳩たちは嫌がるように飛び去っていった。